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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和45年(わ)216号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件公訴事実中「被告人は昭和四五年一二月六日午前一時過ころ判示暴行事件の通報を受けて駈けつけた倉敷警察署巡査市原俊二より職務質問のため同警察署駅前派出所に同行を求められ、同巡査およびさらに応援に来た巡査磯部禎彦と共に右派出所に赴く途中倉敷市阿知一丁目九番一号山朝ビル前路上において矢庭に右磯部巡査の制服の襟を両手で掴んで引張りついでその腹部を一回足蹴りにし、さらにこれを制止しようとした右市原巡査の下腹部を一回足蹴りにする等の暴行を加え、もつて同巡査らの職務の執行を妨害したものである。」との事実について、弁護人は右巡査らの職務執行は適法といえないから公務執行妨害罪は成立しないと主張するので、この点につき検討する。

先ず<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。

即ち被告人は肩書住居地でタイル工をしているものであるが、昭和四五年一二月五日かねて好意を寄せている高校生の角田峰子を倉敷ヘボーリングに行こうと誘い、同日午後一一時ころ同女およびその友人の角田君江と共にボーリング場へ行つたが満員のため倉敷駅前の洋酒喫茶店で飲食したのち同駅前附近を徘徊していたところ、時刻が過ぎ判示のような暴行事件を惹起したこと。すると右暴行事件の様子を屋内より察知した伊丹トシエが電話で派出所にその旨通報したこと。右通報を受けた倉敷署駅前派出所の市原俊二巡査ほか二名が翌六日午前一時過ころ同派出所から約一五〇米東方にある判示記載の飲食店「笑顔」東側路地に急行したところ、被告人ならびに一見高校生風の角田峰子および角田君江が向い合つて立ち何か話し合つていたので、同巡査らは右三名に「どうしたのか。」と事情を尋ねると、同女らが何も答えず急に泣き出したので、後難をおそれて被害の申述ができないでいると判断し、被告人ら三名に対し駅前派出所までの同行を求め、女性二名はこれに応じ同派出所に赴いたこと。しかし被告人は、前記路地を出たところで右同行を嫌がり右派出所と反対の方向に逃げ出したが、酒酔いのため足がもつれて路上に転倒し、追跡してきた市原巡査に引き起されたうえ「逃げたりしてはいけまあが。」と再度同行を求めらられ、同巡査とその時応援に駈けつけて来た磯部禎彦巡査より左右から抱きかかえられるようにして西方へ約六〇米進んだもののあくまで同行を拒み、前記山朝ビル前附近まで来たとき「何もしておるまあが。わしの女じやけんよかろうが。」「二人の女は帰らせえ。」などと叫んで遂に路上に坐り込んだところ、あくまで被告人を同行させようとした巡査らから「静かにせえ。」「ええから行けえ。」などとせき立てられたため立腹すると共に同巡査らから逃れるべく公訴事実記載のような暴行に及んだこと。

以上の事実が認められる。

そこで右巡査らの行為が警察官職務執行法に照し正当な職務行為と認められるかどうか判断されなければならないところ、当初被告人ほか二名を路地において職務質問したことには問題がないが、被害者と目される女性二名が被告人の側でいい憚つたため、被告人ら三名に対し派出所に同行することを求めたことについては疑問がなくはない。何故ならば前記路地は幅員約二米の道路で時間的にも車は勿論、人の交通も皆無であつて両脇に飲食店があつたにせよ、同所で右の者らに職務質問を行なうことは被質問者にとつて不利益ではなく交通の妨害にもならないことは明らかであり、唯右女性二名の答弁を得やすくするため同女らと被告人との若干の場所的隔離をおこなえばそれを以つて足ると考えられる。しかし乍ら被告人ら三名がいわゆる任意同行を承諾すればその点は治癒され、現に女性二名は派出所に同行し被告人も亦路地の入口まで出たのであるが、ここで被告人は派出所に同行することをあからさまに拒み逃走しようとしているのである。もとより斯る逃走者を追跡し職務質問を継続することは正当な職務行為であろうが、転倒した被告人を引き起し巡査二名で左右からはさみかかえるようにして派出所まで連行しようとすることはもはや許されないものといわなければならない。(左右からはさみかかえられたことについて、被告人は当公判廷では明確に述べなかつたが、関係者の各供述を綜合すれば充分窺い得られるところである。)

けだし被告人が派出所までの同行を拒めばその場で職務質問を行なうべきであり、この点に関し右巡査らは路地から出た道路(倉敷駅前から東方に通じ寿町踏切に至る幅員約七米余りの道路)では交通の妨害となると供述しているが、深夜である午前一時過ころでは右道路における人の通行は稀であつて人だかり等のおそれはないと思料されるから被告人に不利ではなく、また車の交通が若干あつたにせよ、職務質問を道路端で行なう限り交通の妨害となるとは到底考えられない。それにも拘らず被告人の意に反して其処から約一五〇米も離れた派出所まで前記のような方法で連行することは正に法の許容しないところというべきである。

以上のとおり右巡査らの行為は警察官職務執行法第二条所定の適法要件を欠いた違法な職務執行であつたというの他なく、これに対し被告人が抵抗したとしてもこれを禁ずることはできない。

なお付言するに、本件において被告人は左手小指の骨折と胸部打撲傷の傷害を負つており、これが如何なる機会に生じたかは必ずしも明瞭ではないが、被告人の前示暴行よりも遙に強度の有形力の行使が警察官側より被告人に対しなされたことも充分想像されるところである。

(芥川具正)

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